聖書によれば、世の終わりが近づけば、神は人々に霊を送るとされている。
1970年代以降には、アメリカで臨死体験が社会的に認知されるようになってきた。特に、スイス生まれの医師エリザベス・キュブラー・ロスや、レイモンド・ムーディの働きが大きな影響を与えた。
キュブラー・ロスは、第二次大戦後にアメリカに移住し、死に臨んだ患者の心理状態などを研究し、死に至るまでの精神状態の変遷を明らかにした。ムーディはベスト・セラーとなった1975年の「かいま見た死後の世界」などの臨死体験に関する著作を多く著わし、立花隆の臨死体験の研究などに影響を及ぼした。
2017年から2020年の調査では、死後の世界を信じる人間は、アメリカで68.2%、日本では32.2%となっている。(https://news.yahoo.co.jp/byline/fuwaraizo/20210215-00221877)
そもそも、キリスト教の聖書では、霊、霊界、天国や神の存在が前提とされている。キリスト教が事実上の国教のアメリカでは、死後の世界を信じない方が例外的な人間のはずだが、無神論者などもアメリカには結構いる、ということになる。あるいは、科学が発達した社会では、科学的に証明できない死後の世界は信じる対象にはならない、ということかも知れない。
日本では、今の仏教の僧侶でも死後の世界の存在を信じない者もいるが、平安時代の源信が「往生要集」で地獄や極楽について述べて以来、霊界の存在を認めることは日本文化の伝統となっている。ただし、明治以降の西洋化の中で、西洋科学は取り入れたが、キリスト教は敬遠した日本は、科学の洗脳で死後の世界に対する信仰は、アメリカの半分ほどの広がりしかない。つまり、日本人よりアメリカ人の方が臨死体験や死後の世界を信じている。世界の物質文明と経済の中心であるアメリカで、3分の2以上の国民が死後の世界を信じていることの意味は大きい。
キリスト教の影響が大きいアメリカでは、スピチュアリズムや心霊主義は、究極的には伝統的なキリスト教という枠組みの中に納まるが、社会的に仏教が葬祭儀式のみに関わるものだという通念のある現在の日本では、スピチュアリズムや心霊主義はエンターテインメントに埋没したり、1995年のオウム真理教によるテロのような、歯止めのないカルト(過激で異端的な新興宗教集団)の狂信的な動きと結びつきやすい。そのため、死後の世界などは敬遠すべき問題だという雰囲気が社会で主流となっている。その結果、日本では3分の1の国民しか死後の世界を信じていない、ということになる。
日本人が尊敬するヨーロッパの文学作品の多くには、霊的な世界に対する認識が基本にある。プラトンやソクラテスから始まって、ダンテ、ゲーテ、シェークスピアに至るまで、霊界への関心が表わされている。夏目漱石もイギリスの心霊主義関係の本を読んでいたし、禅を世界に広めた鈴木大拙も18世紀の霊能力者のスエーデンボルグから影響を受けている。
日本人が立花隆の臨死体験の本を読んだり、スピチュアリズムや心霊主義に関心を持つのは当然だが、死後の世界について正しい理解を得るには、伝統的なキリスト教や仏教に親しむことが必要だと思われる。
歴史的に世の終わりが近づいたとき、神が霊を送るのは、まずキリスト教の伝統の上で死後の世界を信じるアメリカ人だということになる。実際、霊界には悪魔もいるので、安易にスピチュアリズムや心霊主義に惑わされれば、悪魔の手先になりかねない。現代の日本人は、スピチュアリズムや心霊主義、それを売り物にする新興宗教などに関わる前に、伝統的なキリスト教や仏教を学ぶことが安全で、必要なことだと思われる。